有機反応機構 酸・塩基からのアプローチ
奥山 格 著,東京化学同人 2020年 ¥2,600
奥山先生の反応機構解説書。学部低学年からも読めるやさしい書き方で,初めて大学で有機化学を学ぶ人が授業で使う教科書と同時に本書を読み進めることで反応機構の理解に役立つ。
副題に「酸・塩基からのアプローチ」とあるように,本書では「置換」,「付加」,「脱離」,「転位」の4種類の反応形式に,結合の切断に基づく3種類の反応機構として,ヘテロリシス,ホモリシス,ペリ環状反応を紹介している。
その上で徹底的に酸と塩基の考え方に立脚して,ヘテロリシスによって生じるカチオンやアニオンなどを,わかりやすく巻矢印を用いてひも解いている。
ときどき軌道論でも反応機構を説明しているが,広い有機反応のうち扱う内容を限定することで,巻矢印を用いた電子の移動に基づく結合の組み替えで反応の進行を終始徹底して説明しているので,統一して理解できる。
最後の第11章には有機分子触媒に踏み込んでいるが,やはり酸と塩基の考え方で巻矢印を用いて解説している。また例題や問題が数多く用意されていて,解答も用意されているので,その意味でも学部生の学習に向いている。
簡単な内容でも教科書を読んでいると新しい気づきがあるもので,なんとなく考えていたものが明確に文章で説明されていたり,pHや平衡定数を使って数値で説明されていたり,参考になりました。
巻矢印の書き方に「原子指定巻矢印」という作法があることを初めて知りました。
また,有機分子触媒における酸,塩基の考え方は初めて読むものでしたが,様々な反応機構解説書を書いている奥山先生ならではのわかりやすい内容です。
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